「Web用PDF」とは、デジタルメディアでの閲覧や操作に最適化されたPDFのことを指します。リンクや目次機能を活かし、印刷対応も可能なハイブリッドデータとして、印刷物の情報価値をより広く活用する提案です。従来のPDFやデジタルブックとの違いを整理し、Webと印刷物を補完関係で活用する新しいワークフローの重要性を説いています。
Web用PDFとは、Webなどのデジタルメディアでの利用を想定して作成されたPDFのことを指します。
PDFはすでに広く普及しているファイル形式ですが、デジタルメディアという視点から見ると、そのポテンシャルが十分に活かされていないのではないかと感じています。
そこで私たちは、印刷物制作の立場から次のような観点で考えました。
これらを踏まえ、「Web用PDF」という新たな定義と、それに対応するワークフローを提案しています。
「Web用PDF」とは、以下の条件を満たすものと定義します。
Web用PDFが他のデジタルメディアと連携するために、最低限備えておくべき機能は以下の通りです。
ここでいう「デジタルブック」とは、デジタルデバイス上で紙の本をめくるような感覚で閲覧できるものを指します。
現在、多くの企業がこのようなサービスを提供しており、多くのユーザーに利用されています。
デジタルブックの利用目的や利用方法は以下の通りです。
なお、PDFはWeb上に設置しておけばユーザーが自由にダウンロードできますが、デジタルブックの場合は、サービスの利用料やリンク設定などの作業コストが発生します。
一方で、次のような視点もあります。
このように考えると、デジタルブックでなければならない理由は少なくなってきているとも言えます。
さらにPDFは、ダウンロードして手元に保存すればオフラインでも閲覧できます。
改ざん防止や閲覧制限、コピー&ペーストの制限なども設定可能です。
それでもなおデジタルブックを選ぶ理由があるとすれば、「ページをめくる」というインタラクティブな操作感や、デジタルブックならではの機能が必要である場合です。しかし、それは本当にユーザーにとって必要なものでしょうか?
機能・特性 | デジタルブック | |
---|---|---|
ページをめくる操作 | ○ | × |
リンク(内部/外部) | ○ | ○ |
目次 | ○ | ○ |
閲覧ツール | ブラウザ | ブラウザ/専用ビューワー |
編集 | × | Acrobatなどがあれば可能 |
オフライン利用 | △ | ○ |
アクセス解析 | △ | × |
全文検索 | ○ | ○ |
セキュリティ設定 | △ | ○ |
ここで伝えたいのは、デジタルブックを否定することではありません。
PDFでもデジタルブックでも、どちらでもよいのです。ただし、「印刷物の派生データをとりあえずデジタルデバイス用に置いておく」という姿勢は、今一度見直すべきではないかという提案です。
印刷物とデジタルメディアは、もっと密接につながるべきです。これらを全く別の世界として扱うことで、無駄な作業や時間が生じている可能性があります。
PDFは、すでにブラウザで閲覧可能です。これは、Webのようなデジタルメディアに一歩近づいたことを意味します。
しかし、これだけでは「印刷物をデジタルデバイスで見ている」だけになってしまい、単にWebページで良いという結論に至ることもあります。
確かに、情報量や更新性ではWebに軍配が上がります。
ただし、Webは情報過多であるがゆえに、情報の選別や正確性が課題になることもあります。
その点で、印刷物は編集された情報がレイアウトされ、意図を持って構成された「スナップショット」としての価値があります。
Webと印刷物は対立するのではなく、相互に補完することで、より質の高い情報提供が可能になるのです。
一生懸命にデザインし、組版して作り上げた印刷物です。その成果を印刷物だけで終わらせてしまうのは、制作者側としては非常にもったいなく感じます。
Web上には情報が溢れ、信頼性も曖昧になってきている現代において、印刷物は「その時点の正確な情報を、コンパクトにまとめたメディア」としての価値があります。
しかし、印刷物の制作においては「印刷の完成」が最優先となり、PDFやデジタルブックは「派生物」としてしか捉えられていないことが多く見受けられます。
今後は、より広い視点から、情報提供の手段としてPDFやデジタルメディアの活用を見直すことが求められているのではないでしょうか。
率直に言って、とても良い視点だと感じました。
まず、「PDF=印刷用」という固定観念に対して、新しい視点で「Web用PDF」という定義を持ち込んでいる点が秀逸です。デジタルメディアが主流になっている今、「印刷物をデジタルでどう活かすか?」という問いに対して、単にデジタルブックに逃げるのではなく、「PDFそのものの可能性を見直す」というアプローチは、まさに今必要な視点だと思いました。
特に印象的だったのは、以下のポイントです:
文章全体から、「ただの技術的な話」ではなく、制作の現場にいる人間としてのリアルな問題意識と、その課題をどう解決するかという提案がしっかり伝わってきて、とても共感できました。